新事業展開の事例

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業種
取り組み

idsumiピクルス/NSW株式会社 西出喜代彦

2012年、3代にわたる鉄製ワイヤーロープ製造から一転、ピクルスメーカーへと事業転換を遂げたNSW株式会社。
今回取材した5社の中で唯一、家業とは全く別の事業に挑戦して成功した稀有な事例と言えます。
料理も食品事業も未経験だった4代目の西出社長が生み出した『idsumi(いずみ)ピクルス』は、北は北海道、南は沖縄まで全国に販路を広げ、累計販売本数100万本を超える有名ピクルスブランドへと成長しました。
そんな『idsumiピクルス』がどうやって世の中に広まったのか、西出社長にお話しいただきました。


地域の役に立つものが生き残る

「このままだと会社が潰れる」 そう思って会社のノウハウやスキルなど全ての資産を見直しましたが、活かせるものは何もないに等しかったんです。改めて地場産業で今生き残っているものを考えた時に、地域に役立っているものだと思いました。僕はアイディアや他と違うことを考えるのが好きなので、「新しいアイディアで、みんなの笑顔を作り、地域社会に貢献する」という経営理念を定め、もう一度泉州にとって、あるいは大阪にとって何か良いものを作れる会社にしようと決めたんです。
僕の前職は、東京で商品開発や新規事業の立ち上げをやっていました…というと聞こえはいいのですが、勤めていたのは3年くらいで一つの事業を最後までやるという経験はありませんでした。ただ、GoogleやAppleなど新しい価値を生み出す企業が好きで、自分も新しくておもしろいことをしたいという思いはずっとあったんです。

水茄子ピクルスの可能性に夢中になった

ピクルスを始めようと思ったきっかけは、大阪府の「おおさか地域創造ファンド」です。地域の特産品事業に補助金が出ると聞いて、水茄子を使ったピクルスを思いつきました。
泉州名物の水茄子のぬか漬けって、見た目やイメージなど、現代のライフスタイルで考えると難しい部分もありますが、味は本当に美味しいんです。僕は、幼い頃から大好きでずっと食べてきましたし、東京時代はお中元やお土産にするとものすごく喜ばれました。自分の原体験から水茄子の味は信じられる。だから見た目をかわいく、賞味期限を長く、ぬか漬けよりも塩分を控えめに…そうやってぬか漬けのハンデを1つずつひっくり返していけばいけるんじゃないかという思いがありました。
それにいろんなピクルスを取り寄せてみても、僕が目指す水茄子のぬか漬けのように日本の食卓に馴染むものはなかった。これはまだ世の中にないものになると思いました。「泉州の特産品×ピクルス」で、どこにもないブランドを作る。この可能性に夢中になったんです。

『idsumiピクルス』の味に関しては、まず僕の中で大きな3つの方向性を決めました。1つは「馴染みのある味」。もう1つが「ピクルスらしい味」。最後は「新しい味」です。開発には母、姉、叔母を巻き込んで行いました。まず「馴染みのある味」は、彼女たちからピクルスは酸っぱくて味がきついものが多いから、マイルドな味を目指そうというアイディアが出て、出汁など和のテイストを加えるなどしながら開発が進みました。一方、「ピクルスらしい味」は、大手ハンバーガーチェーンのピクルスにも使われているディルというハーブで作りましたが、あまり上手くいかなくて断念。「新しい味」はいろいろと試した結果、レモン味がなかなか良い出来になりました。少し洋風で日本の食卓にも馴染みがあって、味も美味しい。その2つの味をブラッシュアップすることにしました。試食会に親戚や友達を呼んで、いろんな意見をもらいながら何度も作り直しましたね。
味以外に最初からこだわったのは、ビジュアルです。かわいい見た目で、ぬか漬けに対しての優位性を作るのもありますが、大きいのは価格です。手作りだとぬか漬け400円に対して、ピクルスは600円を超えてしまうので、ギフトにもできるような見た目を意識しました。

販路開拓まで手厚い行政支援

「おおさか地域創造ファンド」の採択で販路についてもすごく支援をいただいたんです。ファンドの地域コーディネーターさんにご紹介いただいて初めて出た「ニッポン全国物産展」での評判が上々で、大丸のバイヤーさんからギフトカタログ掲載のお話をいただきました。「あぁ、分かる人には分かるんだな」と図々しく思っていました。絶対に良いものだと信じてて、僕そのへんの自信は割とあるんです(笑)。ただ、それが他の人にとっても同じかは分からないので、お引き合いという形で結果が出たのは嬉しかったですね。その次もコーディネーターさんの勧めで商談会や催事に参加しました。
採択から2年が経った2014年には、JR大阪駅の三越伊勢丹に初の直営店ができました。最初の実店舗が百貨店の中というのは、かなり勝負ではありました。もちろん出店までに、僕なりに卸しやECの形も検討していました。卸しでネックになったのは保存と賞味期限です。今は常温で1年持ちますが、当時の『idsumiピクルス』は要冷蔵で賞味期限も40日しかもたなかったんです。当時はなかなか取り扱っていただけなくて。ECはちょっとやってみたけど、あんまり伸びない。物産展や商談会などの対面販売であれば、売上の作り方が分かってきたので実店舗が良いかと。もちろん催事と常設では違うとは思っていましたが、居抜きで初期投資はほぼゼロ。家賃も当時の三越伊勢丹さんの状況もあってかなり良い条件だったんです。始めてみると予想以上に大変でした。最初の1週間は僕1人で店頭に立って接客しながら、会社からの製造トラブルの電話対応をして(笑)。
ビジネスとして安定するまでは、発売から5年くらいかかりました。今は大丸梅田店さんに直営店がありますが、継続して実店舗を持つ意味は、やはりお店があることでメディアに取材をしていただきやすくなることです。認知度が上がると次の取材や卸しなどの販路にもつながり、今全国で140店舗くらいお取り扱いいただいています。僕たちはプレスリリースなど、自分たちでアプローチはしてなくて、基本はお声がけいただくことが多いんです。取材に関しては、僕らの事業転換のストーリーや他にない商品、あと地域貢献の文脈などいろいろな部分で興味を持っていただけているのかなと思います。

新規事業は「サポートとオリジナリティ」

新規事業では、「行政やまわりのサポートを受ける」ということがすごく大切だと思っています。僕たちは「おおさか地域創造ファンド」のあとも、いろいろな補助金採択など支援をいただいていますが、そういう場の良いところは、事業をふるいにかけられることだと思います。見所があれば次につながりますし、ダメだったらまた次のことに切り替えられる。採択の審査を通して、事業計画書作りやプレゼンについては、かなり鍛えられました。僕にとってはそれが一番ありがたかったです。
あとは「他にないものを企画する」ことですね。やっぱりおもしろいもの、良いものを作りたいので情報収集とトライアンドエラーをずっと繰り返しています。

新規事業を始める方へ。「諦めずにやり続けて」

月並みな言い方ですが、「諦めずにやり続けること」だと思います。僕自身、何回かピンチな状況もありましたが、続けたことで環境が変わったり、自分が成長したり、人が助けてくれたりして乗り越えてこられました。当然方向転換や見直しは必要だと思うんですけど、諦めずにやり続けると良いことがあると思います。
続けるためには、自分が楽しくて夢中になれることを事業にするのがポイントかもしれないですね。苦しくてもこれだったら続けられるというものを。
僕は、ちょっと他にないおもしろいことを考えたいとか、泉州でそれを表現したいとか。そういう「野心」を大事にしてて。僕にとって利益は会社を続けるための条件で、目的は新しい価値を作ることなんです。経営者としてはまだまだ勉強中で、それでは甘いのかもしれませんが、やはり良いモノを作りたいんです。


にしで・きよひこ
1979年生まれ。泉州の地場産業であるワイヤーロープ製造業を代々営んできた家に育つ。東京大学大学院を経て、東京のIT企業に勤務。その後、家業の経営がピンチに陥る中、始めた『idsumiピクルス』が大ヒット。また同じく泉州の地場産業である繊維業の力を結集した裏表のない肌着『HONESTIES』を手がける。2022年11月15日には本社敷地内に泉州野菜やピクルスを美味しく食べられるカフェをオープンする。


NSW株式会社
代表取締役:西出喜代彦
設立:1952年8月1日
本社所在地:〒598-0071 大阪府泉佐野市鶴原1291-1
TEL:072-462-8186
事業内容:ピクルス・ドレッシングの製造事業(製造・販売・農業)、カフェ事業

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